ごあいさつ

 精神医学史学会第26回学術集会では、ふたつのシンポジウムを用意しています。1日目は「うつ病と『ストレス伝統』をめぐる150年史」です。このテーマは150年余にわたって精神医学分野だけでなく生活する人すべてに身近な問題として、水面下に沈んだり浮上したりを反復してきました。この反復を振りかえってその同一性と差異について会員の諸先生方と議論を深め、より広く精神医学界そして歴史学界全体に対して新たに寄与すべく目論んでいます。

 2日目は「精神医学からみた歴史学、歴史学からみた精神医学」です。当学会は小さい学会ながら、それぞれ当代一流の精神医学の専門家と歴史学の専門家が参加されています。そこで今回は、相互分野のクロストークを試みました。私自身が精神医学の歴史について書くたびに、自らが精神医学の専門家ではあっても歴史学については一愛好家にすぎず、歴史学という学問の問題意識や方法論についての見識不足をたびたび痛感します。これが本企画の動機です。歴史学を専門とする先生方から見た精神医学への不満や期待、あるいはその逆について存分に討議を深めようと企画しました。今後の学会の発展のためにも必要な問いです。

 かつての英国では、精神医学者と歴史学者による覇権争いが起りました。混迷のなか精神医学界からはBerriosら、歴史学界からはPorterらによる真摯な議論から生まれた記念碑のひとつが、"A History of Clinical Psychiatry: The Origin and History of Psychiatric Disorders"(1999)です。今回は幸運にもBerriosやPorterの薫陶を受けられた諸先生方および当学会を代表する先生に登壇を依頼できました。

 特別講演と教育講演は、岩田誠先生と江口重幸先生にお願いしました。そう、ここでは神経学と精神医学の関係が通奏低音におかれています。

 それでは、11月11日(土)・12日(日)はスタッフ一同で、みなさんとの再会あるいは新たな出会いをお待ちしております。何卒よろしくお願いします。


国家公務員共済組合連合会虎の門病院精神科 大前 晋